ソレイユ 「多分、あれは……夢なんだろうな……」 多分、きっと。 は、ベッドの上でそう呟きながら。 無意識にも涙を零していた。 どうして……なんだろう。 そう。 あれは、きっと夢。 多分。 おそらく…… 「でも─────」 心で、それを打ち消しながらも。 は、どうしてもそれを夢だと思い切ることが出来ずにいたのだ。 夢。 それは、ここ最近になってをまるで戒めるかのようにして毎夜見続けるそれ。 夢の中で、彼女は……出会う。 毎夜のように、ひとりの青年と。 は、美しい花園の中で出会うのだ。 「名前も知らない……ひと」 でも…… は、小さな吐息をはらむ。 「あのひとに出会うだけで、わたしは────」 わたしは、なぜだか。 切なくて、そして……わけの分からないもどかしさと、懐かしさを覚えて仕方がない。 でも、それをあのひとには聞けない。 ううん。 違う。 なぜだか、聞いてはならないような気がしてしまうから。 夢の中で───── あのひとは、わたしに向かって。 「きみにずっと会いたかった。なぜだか、俺はきみと出会うためだけに……ここに存在するような気がしてならない」 一体、これはどうしてなのだろう。 「どうして……わたしも、そう思ってしまう。なぜなの……? 貴方とこうして居るだけで、わたしは。ううん。わたしの心が、感情が、全てが満たされるような気がして」 でも。 同時に切なくて、たまらない。 なぜなの……? わたし、貴方のことを何ひとつとして知らないはずなのに。 それなのに、今のままで構わないとさえ思ってしまう。 感じてしまう。 わたしは───── 涙が、溢れてしまう。 なぜなのだか、分からないのに。 もしかしたら、これは全てわたし自身の願望かも知れない。 もしかしたら、貴方は……実際に存在しないのかも。 それでも。 わたしは、この心のどこかで願ってしまう。 「貴方に会いたい」 貴方をもっと知りたい。 本当は、貴方にわたしの名前を呼んでもらいたい。 でも。 それを告げてしまったら、きっと。 夢は、儚く散ってしまうような気がしてしまうから。 だから、言えない。 貴方を知りたいのに。 貴方に抱きしめてもらいたい。 貴方に名前を呼んでもらいたい。 わたし─────貴方のことを知りたい。 けど。 言えない。 言ってしまったら、わたしはきっと。 もう二度と貴方と夢の中で出会うことが出来ないかも知れないから。 目を閉じれば、今でも夕べの出来事を思い出せる。 あの、美しいソレイユの花園で。 わたしは、貴方の心をこの胸に感じられた。 ふっ…… 涙がの頬をツッーと流れ落ちた。 「─────どうしよう……」 には、分かっていた。 いや、十分過ぎるほど理解できていたはずだった。 おそらく、今夜あたりが自分にとってのタイムリミットではないのかと。 逃れるには、ここが限界だろう。 あのひとを忘れるためにも。 夢を見ないように眠ってしまうしかない。 けれど。 それが、には出来ずにいた。 「……会いたい。貴方に」 もしかしたら、もう二度と現実の世界へと戻ることが出来ないかも知れない。 いいえ。 は、否定した。 そうではないのだと。 「そうなったら、わたしは本望だわ」 にこりと笑みを称える。 「行くわ……貴方の元に」 そう。 心から、行ける。 逃れたいなんて思わない。 だって、貴方が待っているもの。 あの、ソレイユの花園で。 今夜も、わたしのために…… はにかみながら、微笑んで───── |
©2004KONAMI/ 鏡ユイノ
ユイノさんのサイト「邪苦恋」三周年記念フリー創作を頂戴してまいりました。 相も変わらず透明感の溢れる世界観。 そして、記念作品として相応しい、手応えを感じる創作。 快い重さを与えてくれると申しますか。 感覚的で浮遊する楽しさを与えてくれるこの作品は、『ときめきメモリアルGirl's Side』の主人公のお話としてだけではなく、幾重にも創作の世界観の中で泳がせて頂けるだけの物を存分に秘めていると思われました。 そんな面白味を折角与えてくれる場を壊したくないと思い、イメージを断定的にしないように、イメージイラストの壁紙にはしませんでした。 |
|||ページ装飾素材「Cha Tee Tea―ちゃ・て・てぃ」様|||