作者である沖継誠馬さまからの注意
こちらの創作は主人公がオリジナルキャラ(名:橘和葉)ですので、
「絶対に知盛×望美じゃなきゃ嫌」とお考えの方は引き返して下さい
|
源平の合戦から数えて800年と少し。 清盛が築いた福原の都は姿を変え、今は神戸という町として国内外にその名を知られる。 今も昔も港町という風情は残っているが、阪神淡路大震災以降は昔ながらの街並みが減り、 いまどきの町並みへと変化してきている。 その神戸も今、慌しく年の瀬を迎えていた…… 邂逅 ![]() 800年前の昔、この地には平家の別荘が立ち並んでいたという。 その中でも有名なのが”雪の御所”、正式名称は雪見の御所……冬に使用したという清盛の別荘だ。 雪……今はあまり積もらないが、当時はどこまで積もったのだろうか。 それに思いを馳せてみるも、やはり思い出すのは彼のこと。 初めて会ったのもこの土地。 今思い返せば、あの瞬間から私は彼に惹かれていたことに気付かされる。 けれども出会った”彼”は、自分が幼い頃から知っている”彼”ではない。 「兄上?」 銀色の髪が夜風になびく。 ひょっこりと顔を出したのは幾つか年の離れた、同母弟だ。 手には杯と酒の入った瓶子が握られていた。 「…………」 「あの方の……和葉殿のことを考えておられましたか?」 隣に座り、傍らに置いた杯に瓶子から酒を注ぎいれる。 「十六夜の君…いえ、源氏の神子殿…そして将臣殿とともにご自分の世界へと戻られましたから…ね」 彼…弟である重衡が過ぎ去った秋のあの日のことを思い出すように目を細めた。 それを何気なしに聞く兄…知盛。 「それにしても兄上。なぜこちらにお戻りになられたのですか?」 彼らがいる場所は福原・雪の御所。 京での和議が成り、しばらくは都に留まってはいたが、数日前に福原へと戻ってきたのだ。 そして今に至る。 「…………お前には関わりのないことだ」 注がれた杯に手を伸ばし、くい、とあおる。 「そういうことにしておきましょう」 苦笑を漏らし、もう一つの杯へと手を伸ばした。 こうして二人並んで酒を飲むのは久方ぶりだ。 最も、秋口までは何度か他の者達も交えて飲んだりはしたが。 その時には必ずといっていいほど和葉が同席していた。 彼女はこの世界に何者かの手によって飛ばされ、福原に降り立ったという。 そして紆余曲折を経て元の世界に戻った。 深く関わったのは自分ではない。 兄である知盛だ。 だから彼女のことはあまりよくは知らない。 「雪……だな」 知盛が呟きを漏らした。 視線を上げると、闇夜に白いものがちらほらと降って来ているのが見えた。 「肌寒いと思ったら雪ですか」 このままでは明日の元旦には積もっていることでしょう。 嬉しそうに空を見上げる重衡の隣で、知盛は腰を上げた。 「…………どちらに?」 問いかけには答えずそのまま階に置いていた履物を履いて出てゆく。 それを見送り、重衡は困ったものだと苦笑を漏らした。 戻った時、私はやはり神戸の清盛塚にいた。 戻る際に一緒だった望美も将臣もいない。 あれは全て幻……白昼夢だったのではないかとさえ思えるほどの。 だが。 和葉は首元にある紫水晶を削り括りつけただけの簡素なチョーカーへと視線を落とした。 それが手元にあったからこそ夢ではない、現実だったのだと確信したのだ。 あれから一年が経った。 卒論の資料集めにいそしむ傍ら、暇が出来れば平家の史跡へと足を運ぶ。 それが常となっている。 年が改まり、新しい年度が始まれば、四回生。 和葉は卒業論文を、源平合戦下の平氏についてのことにしようと決めていた。 担当教授からは資史料が多いからよく吟味してやりなさいと言われたが、そのようなことなどどうでもよかった。 ただ、自分が出会った者達のことを調べ続けていればずっと繋がっていられると思ったから。 大学が冬期休暇となり、和葉は自宅で毎日資史料と格闘していた。 そして今日は大晦日。 友人と初詣に行くと言って出かけたのが午後十時を回ってからだった。 大学の友人たちと三宮で待ち合わせ、生田神社へと向かう。 参道は人で溢れかえっていた。 時計を見る。 あと十分で午前零時。 年が改まって一月一日となる。 十二月三十一日と一月一日は遠く近い存在だといったのは誰だったか。 境内に何とか入ったが、これ以上は動けなさそうだ。 と、和葉の視界の端に見覚えのある人影が映った。 人ごみの中、その人影はちらりと見え、再び消える。 あれは。 友人たちが呼び止めるのも構わず和葉は走り出した。 この人ごみの中だ。 走ることはかなわず、人を掻き分けて進む。 「あと二分!」 誰かが声を上げ、カウントダウンが始まった。 知盛が来たのは生田の森だった。 相も変わらず静かな森。 その森の中でも雪は降り続いてゆく。 社の傍らに馬を繋ぎ、社殿裏へと回った。 そして濡れ縁へと腰を下ろす。 「…………」 ほう、と吐息をつき、夜空を見上げた。 なぜ自分はここに来たのだろうかと考える。 行くのはどこでもよかったのだ。 だが、無意識のうちにこの森へと来てしまった。 口の端が僅かに持ち上がる。 「人ぞ恋しき………か」 馬鹿馬鹿しいとばかりに苦笑を漏らした。 と、その耳に誰かの自分を呼ぶ声が聞こえた。 「…………」 いる筈などない。 空耳だと自分に言い聞かせる。 と、再び声が聞こえた。 今度は近くだ。 「…………」 手を差し伸ばす。 まるでそこに誰かがいるかのように。 社殿を裏手に回り、辺りを見回す。 と、鼻腔をくすぐる香の香り。 これは…… 「知盛、さん?」 彼が好きだと漏らした香の香りだ。 忘れることはない。 確かに、この香りは彼のものだ。 再び視界の端に人影が見えた。 社殿の濡れ縁に腰を掛け、夜空を見上げる人影。 その彼が何事かを呟いた。 「知盛さん!」 思わず走り出す。 そして手を伸ばした。 届かないのは分かってはいるけれど、伸ばさずにはいられなかった。 知盛は己の手に、見えないが質量のあるものが触れたのを感じ取った瞬間、それを握って引き寄せた。 風が巻き起こり、舞い落ちてくる雪が一時風を伴って吹雪と化す。 「わっっ」 色気も何もない驚きの声が響く。 そして…… 温かなものが己の腕の中に飛び込んでくる。 「………………っと」 それを抱き締めながら勢い余って後ろに倒れこむ知盛。 そして腕の中にある存在を今一度見やった。 「…………和葉?」 声音は驚きに満ちたものだったが、反対に懐かしいとさえ感じるものだ。 「ごめんなさい……」 飛び込んできた和葉が呟くように謝る。 「…………何を、謝る?」 「………ずっと……言えずじまいだったから…」 元の世界に戻る時も知盛は見送りにはこなかった。 だから……。 「それと………これまでずっと有難うございました」 ようやく顔を上げ、知盛を見つめる。 その言葉に、当の本人は困惑した表情で眉根を寄せた。 「まるで別れを告げるような言葉だな」 「だって………」 再び視線が落ちる。 「こうして会えたのは奇跡だと思うんです。奇跡は二度と起こらない。………だから」 「奇跡は己の力で起こすのだ、とお前は言っただろう?」 和葉の手をそっと握り、己の頬へと寄せる。 「惚れた女を逃がすなど俺はしない。…………必ずお前を追いかける。だから待っていろ」 「…………」 驚きに和葉は目を丸くする。 どうやら和葉は知盛がここまで積極的だとは思わなかったのだろう。 どこか受身で、どこか退廃的な雰囲気を漂わせるのがこれまでの知盛だった。 それが。 「…………和葉?」 「うん…………ずっと、待ってる……待ってるから」 涙が頬を伝う。 頷くたびに真珠のような雫がぱたぱたと落ち、それを知盛は勿体無いと言いつつも手で伝う涙を拭ってやる。 風が吹いた。 互いの体温が不意になくなる。 「…………………知盛…さん」 顔を両手で覆う和葉。 声を殺して泣いているのだろう。 肩が震えている。 しばらくそうやって泣き、ようやく顔を上げた。 涙を拭き、夜空を見上げる。 「5」 「4」 「3」 カウントダウンの大合唱。 社殿表側では参拝客の殆どが声を上げていることだろう。 これで今年はおしまい。 「2」 「1」 「0!!!」 ざわめきが最高潮に達した。 二〇〇六年の幕開けである。 「…………ずっと……この場所で…………」 待ってます。 もう気配も何もない、知盛が座っていた場所に向かって声をかけると、和葉は歩き出した。 「………………」 抱きしめていたぬくもりがふっと消え、知盛は己の両手を見つめた。 さきほどまで確かに抱きしめていたというのに。 「幻………か?」 と、指先が濡れていることに気づく。 和葉の頬に伝う涙を拭ったときの。 「…………約束、か」 この胸の空虚なものを埋めるのはもうあの存在しかいない。 だから自分は追いかける。 知盛は立ち上がり、歩き出した。 恐らくは交わるであろう奇跡を、自らの力で成す為に。 |
2006©水野十子/白泉社/KOEI/ 沖継誠馬
コメント 2006年年賀状と共に、オンラインでこの創作を頂戴しました。お披露目が2年以上経ってからになってしまい申し訳ありません(^-^; 寂しいような… 温かいような… 複雑な気持ちが入り乱れて、何と言葉にして良いのか迷ってしまう作品です。 が、私では感じられなかった知盛像を追加して下さったことに変わりはありませんし、相変わらずオリジナルキャラや設定をさりげなく盛り込むのが誠馬さんならではだな〜、と感嘆する次第です。 地域を活かした創作と言う点でもそうですよね。 色んな強みが感じられ、毎度の事ながら羨ましく思うのですよ。 |
|||ページ装飾素材「Cha Tee Tea―ちゃ・て・てぃ」様|||