───…私の妻になってくれるね? その言葉を思い出しただけで、自然と頬に熱が集まるのが分かる。 そっと告げられた言葉。 友雅の想い、そして自分の想い。 薬指にはめられた指輪をなぞってあかねは愛しい人の名をそっと囁く。 「友雅さん…」 友雅が左大臣邸を訪ねていくと想い人の少女は一人高欄で物思いにふけっていた。 「…そんな表情でいったい誰のことを想っているのかな?」 「きゃっ。」 後ろから抱きしめられた腕にあかねは小さく悲鳴を上げた。 嗅ぎなれた侍従の香にはっとして顔を向けるとすぐ隣で友雅がくすくすと笑っている。 「もうっ、友雅さん。いきなりなにするんですかっ。」 「何って愛しい姫君を抱きしめたらいけないかい?…私たちは言い交わした仲なのだからね?」 「そっ…」 流し目をくれながら臆面もなく言う友雅にあかねは言葉を失う。 「…違うかな?」 「ち、違わないですけど…」 耳まで赤く染めてどうしたらいいかわからぬ風にしているあかねに友雅はくすりと笑った。 「…本当に君は可愛いね。」 「か、からかわないでくださいっ」 「…本当だよ。私は君に嘘をついたりしない。」 それまであったからかいを含んだ笑みを消して怖いほど真剣に見つめてくる瞳に友雅の想いを痛いほど感じてあかねは俯いて小さく呟く。 「……ずるいん、だから…」 そんな風に言われたら、何も言い返せない。 「…本当に、ずるいんだから…」 この胸にある想いを、まだちゃんと伝えていない。 「…私だって、友雅さんのこと好きなんだからっ!」 あかねの思い切った告白に友雅は驚いたように目を瞠ったが、やがて女なら誰もが心溶かすような極上の笑みを浮かべるとあかねの髪をそっと撫でた。 「…わかっているよ。」 まだ赤く染まっているあかねの頬にそっと口づけを落とす。 「…待ち遠しいよ。君を迎えるその日が。」 そっと力の込められた腕。 その想いに答えるようにあかねもまた友雅の胸にそっと体を預けた。 夕闇に星が瞬き始める。 再び離れ離れとなった牽牛と織女が一際強い輝きを放って二人を見下ろしていた。 |
2004©水野十子/白泉社/KOEI/ 響咲夜
コメント 七夕に合わせフリーになっていた作品を頂戴する旨を伝えた所、後日譚であるおまけ作品まで付けて下さいましたvvv それが、この作品です。 プロポーズされた幸せなあかねちゃん♪好いですね〜♪ 高欄で…というのが、何となくジュリエットを思い浮かべさせます∬ ̄∇)ふふ… 思い返している所へ、さりげなく忍び寄る色男vvv おいしい設定ですね〜vvv さすが、七夕に合わせた作品だけあり、男女の逢瀬の幸せな雰囲気を見事に導き出されていて…赤面してしまうくらいですわ。 |
背景:咲維亜作