『痕』






「きゃっ…」

 窓から見えた友雅の姿に、出迎えようとドアを開けた途端飛び込んできた小さな影にあかねは驚いて声を上げた。

「ワン!」

 小さな影はあかねの足元で嬉しそうに尻尾を振ってあかねを見上げる。

 そこにいたのは、ゴールデン・レトリバーの子犬だった。
 
「…わぁ…可愛い…!」

 あかねは子犬の頭を撫でると後から中に入ってきた友雅に問いかける。

「…この子どうしたんですか?」

「…この別荘を譲ってくれた知人に押し付けられてね。」

「押し付けるなんて…じゃあここで飼うんですか?」

「……君が嫌でなければ、そういうことになるね。」

「嫌なわけないじゃないですか!」

 あかねはそう言うと嬉しそうに子犬を抱き上げてキッチンに入っていった。

 無邪気にはしゃぐその姿に髪を掻きあげて友雅は苦笑する。

「…君ならそう言うと思っていたよ。…私としては不本意なのだけれどねぇ…」


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「…もうっ、くすぐったいったらっ」

 腕にじゃれついてくる無邪気な子犬にあかねもまた無邪気にその頭を撫でる。

 その子犬がふいにあかねの指を甘く噛んだ。

「痛っ!」

 あかねが声を上げたのと、友雅があかねにじゃれつく子犬を抱き上げて引き剥がしたのは、同時だった。

「…やれやれ…この噛みぐせは早くなんとかしなければね…」

「…友雅さん…でもまだ小さいから…そのうち覚えていくことでしょう?」
 
「甘やかすのはよくないよ。躾が肝心だからね」

 小首を傾げて見上げるあかねに艶めいた微笑みを向けて、友雅は答える。

「それに…君の体に傷をつけるのは許せないね。」

「…は?」

「君に痕をつけていいのは、私だけだよ。」

 そう言うと友雅はかすかに噛み痕が残ったあかねの指に口づけた。

「〜〜〜!!躾が必要なのは、どっちですかっ!!」

 耳まで真っ赤にして怒るあかねに子犬を腕に抱いたまま友雅は極上の笑みで囁いた。

「…では、君が教えてくれるのかな?」

 あかねがさらに真っ赤になって絶句したのは、いうまでもない。







2003©水野十子/白泉社/KOEI/ 響咲夜






友雅さんの誕生日に合わせ、フリー配布されていた作品を頂戴してまいりました。

本当に躾が必要なのは、もっと別の人なのでは・・・!?
あかねちゃん、「調教」を頑張って下さい(笑)
一筋縄ではいかない相手ですが。
なんて阿呆を言っている場合ではなく……
犬との意外な話の絡みっぷり!!
とても気に入りましたvvv



  







素材:CoolMoonさま