月下美人
…そこへ辿り着いたのは、偶然だった。
戯れに緑の羽を追って迷い込んだ森の奥深く。
私たちを迎えたのは、月明かりの中白く輝く花だった。
君はそれに無邪気に微笑む。
微笑む君を誰の目にも触れさせずこの腕に閉じ込めてしまえたら。
…そう願う愚かな男のことなど、君は知らない。
はしゃぎ疲れて眠る君を抱きしめて願うのは、一瞬の永遠。
このまま閉じ込めて帰さないと…そう言ったら君はどんな顔をするだろう?
誰もいないこの森で君は私だけを見つめ、私は君だけを見つめる。
…そうできたら、どんなにか。
君に出会って知った淋しさ。
君が与える微かな痛み。
それすら愛しいと…今は素直に思える。
月明かりに輝く花。
この花を手折っても自分のものにはならないように…
君をこの腕に閉じ込めてはおけないと、知ってはいるけれど。
それでも今夜君を離したくない。
それ以上は望まないから。
欠けては満ちるあの月のように強くいたいけでゆるぎない眼差し。
朝が来れば君はこの腕を飛び立っていくだろう。
だから…
今夜だけ…、私のものでいておくれ…
了
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