月下美人






…そこへ辿り着いたのは、偶然だった。

 戯れに緑の羽を追って迷い込んだ森の奥深く。

 私たちを迎えたのは、月明かりの中白く輝く花だった。
 


君はそれに無邪気に微笑む。

 微笑む君を誰の目にも触れさせずこの腕に閉じ込めてしまえたら。

 …そう願う愚かな男のことなど、君は知らない。



 はしゃぎ疲れて眠る君を抱きしめて願うのは、一瞬の永遠。

 このまま閉じ込めて帰さないと…そう言ったら君はどんな顔をするだろう?
 
 誰もいないこの森で君は私だけを見つめ、私は君だけを見つめる。

 …そうできたら、どんなにか。

 

 君に出会って知った淋しさ。

 君が与える微かな痛み。

 それすら愛しいと…今は素直に思える。



 月明かりに輝く花。

 この花を手折っても自分のものにはならないように…

君をこの腕に閉じ込めてはおけないと、知ってはいるけれど。

 それでも今夜君を離したくない。

 それ以上は望まないから。



欠けては満ちるあの月のように強くいたいけでゆるぎない眼差し。
 
 朝が来れば君はこの腕を飛び立っていくだろう。

 


 だから…

今夜だけ…、私のものでいておくれ…









2003©水野十子/白泉社/KOEI/ 響咲夜






友雅さんの誕生日に合わせ、フリー配布されていた作品を頂戴してまいりました。

創作文というより、一篇の心地良い詩というのが相応しい、言葉の響きに惚れ惚れします。
吟味された美しい言葉たち。

緑や蒼が微妙に入り混じった綺麗な世界観を彷彿とさせました。



  







背景:咲維亜作