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だからあなたに花束を・・・。 一人の少女が制服姿のまま、駆けていく。 「もう!掃除がこんなに長引くなんて!」 少女 − 名を花梨と言う − は走りながら、時計をちらりと見る。 「翡翠さん、待ちくたびれてるかな。今日は早く行くって言っちゃったからな。」 花梨の恋人である翡翠は、大人なのにどこか子供っぽいところがあり、花梨と逢う時間が少なくなると機嫌が悪くなる。 「すねるだけなら可愛いんだけどね。」 ・・・一回り以上年上の翡翠のことを可愛いと言える花梨はつわものである・・・。だがその手のかかる(汗)男がすねるだけではすまないことが分かっているだけに自然と足が速くなる・・・。 更にスピードを上げようとした時に、不意に花梨が足を止めた。 それは花屋の前。花梨は少し考えてから花屋の中に入っていった・・・。 *** 「・・・遅い。」 翡翠は時計を見る。先ほど見たときから2〜3分しか進んでいない。だが、翡翠にとっては何時間も経ったように感じる。 『明日は早く帰れる予定だから、学校帰りにそのまま翡翠さんのマンションに行きますね♪』 花梨がそう電話で言ったのが昨日の夜。 翡翠が携帯を取り出して、メールを見る。 『ごめんなさい!掃除で遅れそう。』 花梨からメールで連絡が入ったのが1時間前。 学生である以上仕方ない・・・と、翡翠にしてはかなりの譲歩で30分は待った。だが、30分を過ぎたあたりから、時計を見る回数が増えていく・・・。 「いったい花梨はいつになったらくるんだろうね・・・。」 そうしてもう一度時計を見ると軽くため息をついた。 *** 翡翠が時計を眺めつつ、ため息をついてから更に10分後。 ぴーんぽーん。 『翡翠さん!あ〜け〜て〜!』 花梨の声がインターフォンから聞こえてきた。 花梨には鍵を渡してあるので、いつもなら勝手に入ってくるのに珍しいことともあるものだ・・・。そんなことを考えながら、答える。 「別に入ってきていいよ。」 『手が塞がってるんです〜。だから、あ・け・て。』 手が塞がっている・・・?疑問に思いつつもドアに向かい、翡翠がドアを開けるとそこにはには色とりどりの花が・・・。 「こんにちは。ちょっとこれ持っててください。」 「・・・どうしたんだい?これは?」 花梨の手から花を取りあげながら、尋ねた。 「とりあえず先に活けていいですか?」 翡翠に花を持たせたまま、花梨は花瓶を探しに部屋の中に入る。 翡翠は手の中にある花束を見つめる。 様々な色合いの花が綺麗に束ねられている。 花梨は花瓶を準備すると翡翠から花を受け取り、自由気ままに活ける。 「・・・ま、こんなもんかな?」 「それで?」 「何ですか?」 「どうしたんだい?これは?」 「買ってきたんですけど?」 のほほんと答える花梨に、翡翠は不機嫌ということを隠しもしない顔でさらに問う。 「これを買っていて遅くなったのかい?」 「掃除が長引いたのが1番の理由。買い物の時間は20分くらいかな?」 「私が待っているのに寄り道をしていたのだね、花梨は。」 「もしかして翡翠さん、怒ってます?」 「怒ってなどいないよ。」 「嘘つき。『不機嫌!』って顔に書いてありますよ。」 指をびしっと翡翠の目の前につきだして、花梨は言い切る。 翡翠は、その指を手に取ると口づける。 「花梨があまりにもつれないからね。」 いたずらっぽく瞳を輝かせたまま、翡翠が呟く。 「っ!ひ、昼間っからこんなことしないでください〜!」 「昼でなければいいのかな(クスッ)。もう夕方だよ。」 「そ、そう言うのを『へりくつ』って言うんです!もしくは『あげ足取り』!!」 花梨は顔を真っ赤にしながら、わたわたと暴れる。 「そうかい?」 「そうです!!!あっ、でも・・・。」 「?」 「・・・遅れてごめんなさい。」 「まったくね。待っている愚かな男の身にもなってほしいよ。こっちは一日千秋の思いで待っているというのに・・・。」 「悪いと思ったから謝ってるじゃないですか!」 翡翠は花梨を抱き寄せて腕の中に閉じ込め、耳元で囁く。 「いっそ、このままここに閉じ込めてしまおうか・・・。」 声が耳から入りぞくっと、背中を伝い降りていく。 (み、耳元で囁くなぁ〜〜〜!!!) 花梨は声にならない声で叫ぶが、声にならない声など聞こえるわけがない・・・。 「ねぇ、花梨?」 「だ、だめです!絶対だめ!!」 「どうして?」 「前に言ったでしょ!高校だけは卒業しておきたいんです!」 「・・・こういう時だけは『京』にいればよかったと思うよ。」 翡翠の『京』という言葉に、花梨の身体がびくっと反応する。 「翡翠さん・・・」 「花梨?」 「翡翠さんは・・・後悔してますか・・・?」 (こちらに来たことを・・・。) 花梨が何を言いたいのか察した翡翠はくすりと笑う。 「花梨は、バカだね。」 「バッ、バカ?!」 「後悔なんかする訳ないだろう。花梨が笑って側にいることが重要なんだよ。なのにそんなことを気にするなんて。バカだね。」 「バカ、バカって連呼するなぁ〜。」 「そんなバカな花梨にまいっている私はもっと大バカだけどねぇ。」 「また、バカって言った〜!!!」 先ほどまでのしおらしい態度はどこへやら。 どうも本気でむっとしているらしい花梨に、翡翠は笑いをこらえきれない。 「はいはい。わかったよ。もう言わないから。」 「・・・本当ですかぁ?」 疑わしげな声音に、切なげに(もちろん演技だ。)翡翠は答える。 「今までの行いが行いとは言え、信じてもらえないとは悲しいね・・・。」 「そ、そんなことはないです!私は翡翠さんの事、信じてます!」 「ありがとう、花梨。そう言ってもらえると嬉しいよ。」 ・・・そうしてまたしっかり騙される花梨だった。 「ところでね。花梨。」 「何ですか?」 「急に花束なんてどうしたの?」 特に今日は記念日とかはなかったような気がするのだけれど・・・。 そう尋ねる翡翠に花梨は何でもないことのように答える。 「別に記念日でもなんでもないけど、翡翠さんにあげたかったんです。」 「私に?」 「そう。花屋の前を通ったらね、すごく綺麗で。最初はもっと少ない予定だったけど、好きな花を選んでいるうちに、あんな花束になっちゃって。でも綺麗でしょ?」 「そうだね。」 「いつも翡翠さんにはもらってばかりだから、何かあげたくて・・・。本当は、女郎花があればよかったんだけど。」 「その気持ちだけで十分だよ。ありがとう。」 「喜んでもらえてよかった。」 「一番嬉しいのは、今腕の中にある夜咲く花だけどね・・・。」 「・・・ひ、翡翠さんのバカ〜!どうしてそういう事をさらっと言えちゃうんですか!!」 「だから言っただろう?私は大バカだとね。」 ・・・いつも照れて言えないけど、あなたに逢えてよかった。 終 |
2003©水野十子/白泉社/KOEI/ えな
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サイト10,000Hit感謝創作を頂いて参りました。 翡翠さんと花梨ちゃんのお話だったので、(展示を終えていない今まで頂戴した物の山がある事もあり)初めは拝見するだけにしようと思ったのですが…素敵さに思わず手を出してしまいました うふ☆(* ̄ρ ̄)v 頂く時に掲示板で簡単に書込みしたのですが、「バカップル」と本当は言いたい所を、敢えて伏せたのでしたが、えなさんが返信でストレートに仰ったので、ドキッとした……という思い出深い一作品にもなりました。 お気に入りのポイントとしては、この二人ならではの勢いある理屈合戦振り!!! 理屈ぶりにかしこそうで、恋人同士ゆえに見せるバカっぷり。 相反する物を上手く同居させた作品が、とても愉快ですよねvvv |
背景:咲維亜作