空に舞う花 あかねはキッチンで真剣勝負に挑んでいた。 手には生クリームの絞り袋。 目の前には先ほど焼いて、クリームを塗り終わったスポンジ。 ・・・ようは、あかねはケーキを作っていた。 友雅の好みを考慮した甘さ控えめのケーキ。 あかねはそのケーキの最後の仕上げを行っているところだった。 絞り袋を使い、ケーキの上にクリームを搾り出すと後は仕上げにイチゴで飾りつけ。 「できたっ。」 仕上がりを確認し、ケーキをケーキサーバーに入れる。 「これでケーキはいいでしょ?サラダは作ったし、お肉はあと温めれば食べれるし、シャンパンは友雅さんが買ってくれたのを冷やしてあるし・・・。」 指折り数えながら、忘れていることがないか確認する。 そうして、一通りやることが終わった事を確認すると、エプロンをはずしリビングのソファに腰掛けた。 普段はシンプルながらもセンスのよい友雅の家のリビングだったが、今日だけはあかねの手によっていろいろ飾りつけられている。窓際には、電飾に彩られたクリスマスツリー。 今日は12月24日。クリスマスイブ。 大多数の日本人にとっては、宗教的な意味合いより大切な人と過ごすお祭りのようなものだ。あかねもクリスマスを友雅と過ごすべく、準備をしていたというわけだ。 「友雅さん、早く仕事が終わるといいんだけど・・・。」 クリスマスの準備を始めた時に仕事で呼び出された恋人の名残惜しそうな顔を思い出し、あかねはくすっと笑った。 *** プルプルプル、プルプルプル・・・・・・ 「友雅さん、携帯鳴ってますよ。」 先ほどから鳴っているシンプルな呼び出し音は友雅の携帯だ。 「今日はオフなのだから、放っておけばいいよ。」 「でも急ぎの重要な用件かもしれませんよ?」 「あかねと過ごす以上に重要な用件など私にはないよ。」 「また、そういう恥ずかしい事をさらっと言っちゃうんだから・・・。」 「私は恥ずかしいと思わないし、本当のことだからね。」 そんな話をしている間に、伝言メモに切り替わった為か携帯の呼び出し音が消えた。そして、時置かずしてまた鳴り出す。 「やっぱり出たほうがいいんじゃないですか?」 「仕方ないね・・・」 本当に仕方がなさそうに携帯を取り、発信元を確認すると隣の部屋に移動し、話始めた。数分後、あかねの元に戻ってきた友雅は申し訳なさそうにあかねに告げる。 「あかね。今から少し会社に行かなければいけなくなってね。」 「時間がかかりそうなんですか?」 「行ってみないとわからないね・・・」 「お仕事じゃあ仕方ないですよ。私の方で準備しておきますから、お仕事に行ってきてください。」 あかねの笑顔に見送られ、友雅はしぶしぶ仕事に出かけていった・・・。 *** あかねはソファの上で膝を抱えた。 広いリビングは、エアコンのおかげで快適な温度を保たれているにも関わらず、どこか寒かった。いつもなら寒いと感じることはないのに。 「・・・あぁ、そうか。」 あかねはどこか寒く感じる原因に思いあたった。 手を伸ばせば届くところにいないから。 あかねを包み込むあの声が聞こえないから。 あかねは次々と浮かんでくる思いを消すように軽く頭を振るとソファから立ち上がった。 ベランダに続く窓を開けると、寒風があかねの側を通りすぎる。 「・・・さむっ。」 外は日が出ていたが、上空に寒気が入り込んでいると先ほど天気予報で言っていた。それを証明するかのような寒さにあかねは、はぁっと手に息を吹きかける。 「・・・友雅さん、早く帰ってきて・・・」 友雅がいる前では言わないちょっとした我儘。 言えば友雅ならば本当に側にいてくれるだろう。 だから、言えない、言わない、言いたくない・・・。 重荷なだけな女にはなりたくないから、共に歩いて行きたいから・・・。 あかねは空を見上げ、自分に気合を入れる。 「よしっ!頑張ろう!!」 そんなあかねの目の前を何か白いものが舞った。 「?」 そっと手を差し出すと、手のひらに乗った白いものは水に変わる。 「・・・雪?」 天気がいいのに、雪が降っている・・・。 「何をしているの?あかね。」 不意に声をかけられ、振り向くと仕事から戻った友雅が立っていた。 「友雅さん、お帰りなさい!」 「ただいま。あかね。どうかしたのかい?」 「今、晴れてるのに雪が降ってきたんですよ。」 「風花だね。」 「風花?」 「晴れている時に舞う雪をそう呼ぶのだよ。」 あかねは風花を見つめる。 軽やかに舞う雪がいつもの風景をまた違うもののように演出する。 「いつまでも外にいると風邪を引いてしまうよ。中に入ってクリスマスを始めようか。」 「そうですね。」 そして、あかねは友雅と共に部屋の中に戻っていった。 2人が部屋に戻った後も風花は舞い続ける。 2人のクリスマスを彩るかのように・・・。 |
2003©水野十子/白泉社/KOEI/ えな
クリスマスフリー創作を頂いて参りました。 翡翠さんと花梨ちゃんのお話もフリーになっていたのですが、両方気に入って頂戴しつつ、展示は友雅さんとあかねちゃんの二人の作品に決定♪♪♪ ロマンチックな風花の演出は、2003年の暖冬に似あうロマンチックな演出v 仕事の急用によりロマンチックであった時間を、俄に邪魔をされる二人ですが、それすらもリアリティを感じ、彼らを身近に感じさせてくれましたvvv ただ単に甘いムードとは違ったクリスマスは、爽やかに優しく心に広がるのでした(=^ー^=)♪ |
背景素材:『Cha Tee Tea
―ちゃ・て・てぃ』様