プレゼント 〜 愛しい人に愛を込めて 〜
羽音シリーズ(領主の友雅×悪魔のあかね)番外編(+α)





御伽噺は数多くありますが、公には語られない物語は伝えられている物語以上に数多くあります。今日はその中から一つだけお話いたしましょう・・・。



とある国の、とある領地にあるご領主様のお城の一角。
一人の少女が興味深げに窓の外を眺めておりました。
少女の名は『あかね』。実は、この『あかね』という少女。人間ではなく、『悪魔』なのですが、可愛らしい容姿、愛らしい仕草。『悪魔』と言うよりは『天使』と言った方が納得できる可愛さなのでした。そして、その悪魔であるあかねが何故このご領主様のお城にいるかと言いますと、紆余曲折を経てつい先日このお城の主で、ここのご領主様である友雅のところに嫁いできたからなのです。

「ねぇ、藤ちゃん。」

少女は窓の外を眺めたまま、同じ部屋にいるもう一人の少女に声をかけました。

「何でしょう?あかね様。」

『藤ちゃん』と呼ばれたもう一人の少女が、縫い物の手を休め答えます。
この少女は、友雅があかねを拾った時に手当てを頼んだ白魔法の使い手である『魔女』なのです。見た目十代でも通る方なのですが、実際は友雅よりも年上。その為か、友雅に対して容赦がなく、なおかつ友雅の下に嫁ぐことが決まった可愛いあかねが心配で、心配で、心配で・・・(以下略)。
そうして心配のあまり、あかね付きの侍女として一緒にご領主様のお城に来たという訳です。

「もう。『様』はいらないって言ってるのに・・・。あのね、外が何かにぎやかなんだけど、何かあるの?」

そう。あかねが先程から外を眺めていたのは、いつも以上ににぎやかなお城の外が気になったからでした。藤はあかねのその言葉にあぁと頷き、理由を教えてくれました。

「今日から『生誕祭』が始まるのですわ。」
「『生誕祭』?」
「えぇ。まもなくご領主様のお誕生日ですから。そもそも何故ご領主様の誕生日を町中で祝うようになったか、お知りになりたいですか?」
「知りたい!」
「ではお教えしましょう。」

そう言うと、藤は『生誕祭』について語りはじめました。

− 昔、この一帯がひどい日照に襲われたことがありました。何ヶ月も雨が降らず、このままでは全ての作物が全滅してしまうという時に、水神の御使いが降臨されたのです。その方は雨を降らせ、この一帯をお救いになったと言われています。御使いは、その時に出逢った当時のご領主様と恋に落ち、そのままこちらに留まりやがて一人の子供をもうけ、しばらくは幸せに暮らしておりました。しかし、隣国で日照が起きた時その御使いの噂を聞いたその国が、御使いを奪い取ろうと攻めてきたのです。自分の為にここが戦に巻き込まれることを恐れた御使いは天に還られました。後に、御使いが残された子供が領主となりましたが、この方が祈ると水に関する災害が起きなくなったと言われています。人々は、御使いが天から自分の子供を見守っているからだと口々に噂し、御使いとご領主様に感謝を捧げ、ご領主様の誕生日を街を上げてお祝いするようになったということです。 −

「そんな話があったんだ。」
「えぇ。ですので、この街ではご領主様の誕生日は大切な日なのです。」
「・・・あっ!」
「ど、どうしたんです?あかね様。」
「どうしよう、藤ちゃん。私、友雅さんに何にもプレゼント用意してないよぉ。」

友雅さんに何が欲しいか聞いたほうがいいかなぁとおろおろしだすあかねに、にっこり笑って藤は話しました。

「そんな心配はしなくても大丈夫ですわ。あかね様。」
「えっ?」
「どうせ、友雅殿から何もお聞きではなかったのでしょう?」

藤の問いに、こくんとあかねは頷きました。

「ならば、そのまま放っておけばよろしいのです!」

(・・・どうせ、あかね様が『誕生日プレゼントが何が欲しい?』と聞いた日には、何のためらいもなく、あかね様を要求するに決まっていますわ!!!)

「ど、どうしたの?藤ちゃん・・・。何か目が据わってる・・・。」
「(はっ!)失礼しました。あかね様。お見苦しいところを。」
「それは別にいいけど・・・。私がプレゼントを友雅さんにあげたいんだけど、駄目かなぁ。ほら、一応ふ、夫婦な訳だし・・・(照)。」

あかねのお願いに藤は、友雅への文句をまくしたてたいのをぐっと堪えました。藤もあかねには甘いので、しぶしぶ折衷案を出すことに決めたのです。

「それでは、街にお買い物に行きましょう。ただし、私と護衛に近衛隊の誰かを連れて行くこと。よろしいですわね。」
「一緒に行ってくれるの?ありがとう!藤ちゃん!!」

感謝感激うるうる瞳のあかねに、藤はこの笑顔に勝てないのですわと笑って、廊下に出て声を掛けました。

「誰か!誰かいますか?」
「お呼びでしょうか。」

藤の呼び声にすっと現れたのは、近衛隊隊長であり現在はあかねの護衛隊長である頼久でした。

「あかね様が外に出られます。護衛を。」
「わかりました。それでは直ちに一小隊召集して・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください。頼久さん。」

即座に部下に召集命令をかけようとする頼久をあかねは慌てて呼び止めました。

「何でしょうか?あかね様。」
「私用で出かけるだけですから、一小隊召集するのは止めてください。」
「しかし・・・。」
「頼久さんが護衛してくれれば十分ですよ。藤ちゃんも一緒に来てくれるし。」
「ですが!」

なおも言い募ろうとした頼久に、突然後ろから声がかけられました。

「ならば、私も共に行こう。それならば構わぬな?頼久。」
「泰明殿。」

頼久の後ろから、声を掛けてきたのはお城付きの魔術師である泰明でした。

「泰明殿がご一緒ならば・・・。」
「じゃあ、すみませんが、泰明さん。頼久さん。藤ちゃんお願いします。」

ぺこりと頭を下げるあかねに、三人は自然と微笑を浮かべるのでした。

***

その頃、友雅はというと・・・。

「・・・こんなにいい天気だというのに、私は何故仕事をしているのだろうね。」
「仕事をため込まれるからです。」

即行で優秀な執事である鷹通が返事をしました。

「今日はあかねを連れて、森に散歩に行く予定だったのに・・・。」
「度々、姿を晦まされては困ります。今日は仕事を片付けるまで、外出禁止です。」

そう、鷹通が告げたとき、コンッコンッと部屋の扉がノックされました。

「はい、どうぞ。」
「友雅さん、いますか?」

扉からひょっこりあかねが顔を出しました。

「あかね。どうかしたのかい?」

今までと違う上機嫌な声で問いかけると、あかねは・・・。

「今から、藤ちゃんと一緒にお買い物に行ってきますね♪」

と、告げました。

「二人では危ないよ。私も一緒に・・・」
「大丈夫ですわ、友雅殿。頼久殿と泰明殿がついてきてくださいますから。友雅殿は女同士の買い物に顔を出されるような無粋な真似はされませんわよね?」

あかねの代わりに藤が答えました。問いかけの形をとってはいますが、暗に「ついてきたら承知しませんわよ。」という脅迫が込められておりました。そして、止めは・・・。

「友雅さんは、お仕事頑張ってくださいね♪帰って来るまでにお仕事が終わっていなかったら、今日は藤ちゃんのところに泊まりますから。」

というあかねの一言でした・・・。



***



街に出たあかねと藤は、あちらこちらの店をのぞき、あれでもない、これでもないと楽しそうに品物を選んでおりました。頼久と泰明は、特に文句をいう訳でもなく黙々と二人の後をついて歩きます。
そして、そのうちある露店の前で立ち止まりました。そこには様々な装身具が所狭しと並べられておりました。

「いらっしゃい。」

店主の男が声を掛けます。

「ねぇ、藤ちゃん。この緑色の石がついたペンダントなんてどう?」
「まあ、素敵ですわね。これでしたら友雅殿に似合うと思いますわ。」
「・・・高いかな?」
「値段がついておりませんわね・・・。すみません。こちらはおいくら?」
「そのペンダントは20,000だね。」
「20,000かぁ・・・。」

うーんと悩むあかねに店主は声をかけました。

「誰かに贈り物かい?これはものはいいものだから20,000でも安いよ。」
「うーん。」
「わかった。それじゃあ、こうしよう。」

店主はそう言うと、いきなりあかねと藤の手を掴みました。

「「きゃあ!」」
「貴様、何をする!」

頼久の刀が店主の首元に突きつけられました。

「お、おい。待ってくれ。ただおまけをつけてあげようかと。」

そう言って店主が手を離すと、あかねにはピンクのブレスレットが、藤には紫のブレスレットがいつの間にかはめられていました。

「これをおまけにつけるから、って言おうとしただけだよ。」
「この方に触れるな。次は斬る。」
「おー。怖い、怖い。」

両手をあげる店主に、あかねはすまなそうに言いました。

「ごめんなさい。この人は私を護ることがお仕事だから。」
「いいや。突然驚かした私が悪かったんだ。気にしてないよ。それで品物はどうする?」
「ペンダントとブレスレット2つください。」
「ブレスレットはさっき言ったようにおまけだよ。」
「でも・・・。」
「いいって。驚かせたお詫びもかねてんだ。」
「すみません。」
「じゃあ、20,000ちょうどのお預かりで、こちらが品物だ。毎度あり。」

そうしてあかねたちは品物を持ち、お城に向かって歩き始めました。
お城に帰る途中、あかねと泰明が突然歩みを止め、今来た道の方を振り返りました。

「あれ?」
「あかね様?どうかしましたか?」
「う・・・ん。ちょっと不思議な気配を感じたんだけど。」
「私は何も感じませんでしたが・・・。泰明殿?」
「私も感じた。今まで感じたことがない不思議な気配だった。特に害を加えるものではないようだったが・・・。調べておこう。」

そうして再び四人はお城への道を歩き始めました。

***

城に着くと、頼久、泰明の二人に礼を言い、あかねは友雅の執務室へと向かいました。
コンッ、コンッと部屋のドアを叩くと、中から鷹通が「どうぞ」という声が聞こえてきます。

「ただいま。・・・あれ?友雅さんは?」
「お部屋にいらっしゃいますよ。」
「お仕事は?」
「もうすべて完了しています。まったく本気を出されれば早いのに・・・。困ったものです。」
「じゃあ、お部屋に行きますね。」
「はい。」

そうして、あかねは友雅の部屋に向かいました。そうして、部屋のドアをノックしつつ、部屋の主に声を掛けます。

「ただいま。友雅さん。」

・・・返事がありません。
あかねは、そうっと部屋のドアを開け、部屋の中を見回しますが友雅の姿が見えません。

「友雅さん、どこいっちゃったのかな。」
「あかね様。」
「何?」

藤が声を潜め、指差した方向にあるのはソファ。あかねがソファを覗き込むと、友雅が寝ているではありませんか。

「お仕事で疲れちゃったのかな。」
「そのくらいで疲れるようでは困りますが。とりあえずお休みのようですので、私は下がらせていただきますね。」
「今日はありがとうね。藤ちゃん。」
「あかね様の為ですから、どうってことありませんわ。」

そうして、藤は隣の部屋に引き上げていきました。
あかねはといいますと、じいーーーっと友雅の寝顔を見つめていました。

(・・・本当に綺麗な人だよね。悪魔でもここまで綺麗な人は少ないよ。)

「そんなに見つめられては穴が開いてしまいそうだね。」

友雅は、突然ぱちっと目を開けたかと思うといたずらっぽい笑みを浮かべてそう言いました。

「え!お・・・起きてたんですか?いつから?」
「あかねが部屋に入ってくる少し前くらいかな。」
「じゃあ、最初から起きてたんじゃないですか〜。寝たふりするなんて。」
「藤の君に早く退出していただく為にね。お帰り、あかね。」
「・・・・・・ただいま、友雅さん。」

友雅はソファから体を起こし、当然のようにあかねを腕の中に包み込みます。

「それで今日はどうしたの?急に買い物だなんて。」
「今日から『生誕祭』だって藤ちゃんに聞いて。私知らなくて、友雅さんにプレゼントを用意してなかったから・・・。」
「それで買い物に?」

あかねは、こくんと頷きます。

「私はプレゼントは『あかね』があればいいのだがね。」
「私はものじゃありません!折角買って来たんだから、貰ってください。」

そうして、あかねは買って来たペンダントを友雅に差し出しました。

「これは、いいものだね。」
「気に入ってもらえました?」
「あぁ。」
「よかった。貸してください。つけてあげます。」

そうしてあかねは友雅の首にペンダントをつけてあげました。

「はい。できましたよって、えっ?!」

気がつくと、どこをどうやったのやらあかねの背中にはソファの柔らかい感触が、そして視線の先にはいたずらっぽく微笑む友雅の顔と天井があったのでした。

「ではあかね『も』つけてもらおうかな。」
「つけて・・・ってそういう意味じゃありません!!」
「おや?あかねが自分で『つけてくれる』と言ったのだよ?」
「だから、そういう意味じゃないんですってば〜〜〜。」

後悔先に立たず。もうこのような体勢になったが最後、結局あかね『も』プレゼントとしておいしくいただかれてしまいました・・・。

***

あかねが友雅専用プレゼントと化している頃、街から少し外れた一軒家にあかねがネックレスを買った商人が戻ってきました。

「・・・ただいま。花梨。」
「あっ、お帰り!翡翠・・・さん?」
「つれないね。少し変装しただけでわからないなんて。」
「少しじゃないでしょが。どうしたの?」

花梨が首を傾げます。この翡翠という人が変装したところなど初めて見たからです。

「ここの領主がどうも私と似ているらしくてね。騒ぎにならないように少し変装をね。」
「ふーん。まあいいや。早く変装落としてきてくださいね。今日は腕によりをかけて夕食を作りましたから。」
「ということは今日はまともに食べれるものができたのかな?」

翡翠が変装をとくと、そこには髪がストレートという以外はご領主様にそっくりな男が立っていました。

「人が折角翡翠さんの誕生日だから、プレゼント代わりに頑張って夕食を作ったのにそういうことを言いますか?!」
「冗談だよ。」
「翡翠さんがいうと冗談に聞こえません!」

花梨は、「まったく翡翠さんってば・・・」とぶつぶつ言いながら台所に戻っていくと、翡翠はくすくす笑いながらその後をついていきました。

「そういえばね。花梨。」
「何ですか?」
「今日、街で花梨と気の合いそうな、とても可愛い変わった『小鳥』を見つけたよ。」
「変わった小鳥?どんな?」
「今度連れてきてあげるよ。だからその時までのお楽しみ。」
「無駄遣いはしなくていいですからね。さあ、夕食が冷めちゃう前に食べましょう!」
「そうだね。」

その時花梨は、料理を盛り付けるため翡翠に背中を向けていた為気がつかなかった。翡翠の瞳が意味ありげにきらめいたことに・・・。



***



・・・さて、このお話はここで終わりです。
悪魔のあかねちゃんはこれからどのように過ごしていくのでしょうか?
そして、謎のカップル(大笑)翡翠と花梨の正体は?
それはまた別のお話です。









2003©水野十子/白泉社/KOEI/ えな




地の白虎誕生日フリー創作を頂戴してまいりました。

藤ちゃんが、友雅さんより年上設定でも頷けてしまう……それは、どうなんだろう、ね…友雅さん(・ω・;)
はまりすぎです!!(ごめんよ…我が愛しの友雅さん…)
おとぎ話の口調に合わされた文体で楽しさが倍増ですねv



背景:咲維亜作