元旦の行事




元旦の日、京の都のあかねちゃんはお昼近くに目が覚めました。
まあ、年が明けるのと同時に旦那様に新年のご挨拶をして、その後は皆様のご想像通り。あかねちゃんが疲れるのも無理はないと言ったところでしょうか?

明るい日差しに目を細めて起き上がろうとすると、隣には気持ちよく寝ている旦那様の姿が。


・・
・・・
・・・・
・・・・・?!

「と、友雅さん?!何でまだ寝ているんですか!お仕事は?!」

吃驚仰天のあかねちゃん。
それはそうでしょう。殿上人である友雅さんは本来今お仕事中のはず。
それが気持ちよさそうに自分の隣で寝ているのですから。

「おはよう。あかね。」
「おはようございます。って挨拶してる場合じゃないです!お仕事は?!」
「お休みだよ。」

・・・嘘です。それは絶対嘘です。
あかねちゃん、信じてはいけません。

「休みの訳はないじゃないですか!お正月って行事がいっぱいあるんでしょう?」
「行事があるのは確かだけどね。お休みというのも本当だよ。」

じーっと疑いのまなざしで友雅さんを見つめるあかねちゃん。
それはそうでしょう。ことあるごとに理由をつけて休まれてはたまったものではありません。あかねちゃんも少しは学習したようです。
友雅さんが何か言葉を続けようとした時に、女房から来客のお知らせがありました。
二人は慌てて身支度を整えて、お客様をお迎えしました。
どうやらお客様は永泉さんのようです。

「神子、友雅殿。失礼いたします。」
「永泉さん。明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いしますね♪」
「は、はい!よろしくお願いいたします。」
「・・・それで永泉様。今日はどのようなご用件で。」

にっこりと笑って尋ねているものの目が笑っていません。
心なしか室温が下がったような気もしますが、気のせいということにしておきましょう。永泉さんは背筋にひんやりするものを感じつつ、答えようとした時に別の声が割り込みました。あかねちゃんです。

「それよりも永泉さん!」
「はい?何でしょう?」
「友雅さんが、『今日はお休み』って言い張るんです!本当ですか?」

鬼気迫るあかねの勢いに押されつつ、永泉さんは答えました。

「本当ですよ。」

・・・意外(?)な答えにあかねちゃんは目をぱちくり。

「だから言っただろう?信じていただけないとは悲しいねぇ。」

とは友雅さんの談。

「友雅さんの場合、普段の行いが悪すぎるんです!それでどうしてお休みなんですか?」
「それは本日藤姫の館で『新春かくし芸大会』が開催されるからです。」
「・・・・・・・・・はいっ?!」
「聞き及んだところ、神子殿の世界では元旦には『新春かくし芸大会』を見ることが慣わしとなっているとか。」
「いえ、別に慣わしという訳では・・・」
「神子、そんなご遠慮をなさらずとも。とにかく、それを聞き及んだ主上がこちらに残られた神子殿への感謝の気持ちとして、藤姫に『新春かくし芸大会』を開催するように指示されたのですよ。」
「友雅さん、そんなこと一言も言っていなかったんですよ。」
「神子殿に内緒にして驚かそうという友雅殿の配慮でしょう。そうですよね?友雅殿。」
「えぇ・・・まぁ・・・そうですね・・・」
「その件につきまして主上から文をお預かりしたこともあって、こうしてお2人をお迎えにあがったというわけです。」
「そうだったんですか〜」

納得!と顔に書いてあるあかねちゃんに対して、今ひとつ友雅さんの表情は冴えません。
「ではこちらをどうぞ、友雅殿。主上からの文になります。」
「ありがとうございます。」

友雅さんは永泉さんから文を受け取り、開いたところ以下のような内容が書いてありました。

「どうせ友雅のことだから休みの理由は嘘であろう?
神子殿の手前、嘘はまずいであろうから本当となるように私の方で手配をしておいた。
他の八葉にもちゃんと何かやるように指示してあるから、友雅も何か披露するように。
あぁ、ちなみにその様子は陰陽頭の安部晴明殿に頼んで水鏡で私のところでも見えるようにしてある。楽しみにしているぞ、友雅。

追伸。この忙しい日に休みをやったのだからこれくらいの仕返しは当然だろう?」

さすが、京の最高権力者。やることが違います。
文を読み終わった友雅さんは大きなため息を一つつくと、浮き足立つあかねちゃんとは正反対に重い足取りで、左大臣邸に向かう牛車の中に乗り込んでいきました。
その後、左大臣邸では盛大な『新春かくし芸大会』が開かれ、明るい笑い声が夜遅くまで響いていたとのことです。ただ一人、自業自得を絵に描いたような友雅さんを除いては・・・。



(次はうかつなことを休みの理由に書かないようにしよう・・・)






2005©水野十子/白泉社/KOEI/ えな




オフ年賀状のおまけにと、教えて頂いたアドレス先にあった作品が素敵だったのでお願いして頂戴しましたv

ズルをしてでも想う人と居たいという可愛らしい友雅さんが何ともいえず素敵で愉快。
それだけでも微笑ましいのに、意外や意外、最終的に帝に美味しい所を持っていかれてしまったという友雅さんらしからぬ間抜けっぷりが愉快でなりません。

好きな人のために馬鹿になるのは、友雅さんでも同じなのだと、人間味溢れる部分が見れてホッとした…なんて言ったら失礼でしょうか。

それにしても八葉が「かくし芸」で、どの様な活躍をされるのか気になりますね〜。
勿論、不貞腐れモードの友雅さんがどうなるのかが一番の気掛かり( ̄ー ̄ふふふ…



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