バースディ・プレゼント 私、 は高校生モデルである葉月珪くんと清く正しいお付き合いを現在進行中。 だけど、最近。ちょっとだけ、それに物足りなさを感じてしまうの。 これを自分で言うのも変だけれど。 私、手をつなぐ以上のことをして欲しい。 たとえば、キスとか。 それ以上のことは、まだ心の準備が出来ていなくて恐いのだけど。 でも、ちょっとくらいステップ・アップしても良いのじゃないかしら? こんなこと、珪くんに面と向かってなんて言えないわ。だって、欲求不満かと思われてしまうもの。 だから、内緒。 今年の珪くんの誕生日、実は考えているの。 彼へと渡したいものを。 珪くんへと渡したいもの。 それは────── 「ねえ、決まった?」 お昼を中庭で食べながら、ふいにそう言ったタマちゃんの声。 お弁当の厚焼きたまごを丁度お箸でつまんだところへのお言葉に、思わず驚いて。そのままお弁当の中へと落下。 でも、良かった。 落とさなくて。 今日の厚焼きたまご……実は、ちょっとした自信作だったりしてね。 だから、食べ損ねるのは、困るの。 でも、それよりも。 「……えと、一応……かな」 タマちゃんがわたしへと聞いた言葉。 その意味って、うん。 「一応って……本当に、大丈夫? ちゃん」 心配だよ。 ため息をつきながら、彼女はそう言った。 「あっ、でもね。本当にあげたいものは決まっているから。その……それに加えるかどうかをね、ひとつ。どうしようか考えているだけでね……」 「それに付け加えるもの?」 タマちゃんは、ちょっとだけ怪訝な表情を取りながら、何なのと聞いた。 聞かれても、わたしはそれを素直に答えることが出来ない。 分かっていたことだったけれど。 そう。 多分。 タマちゃんに相談した時点で、きっといつかは聞かれてしまうことなんでって分かっていたことではあったのだけれどね。 「うん……でも、それは内緒」 恥ずかしい……から。 「分かったわ。深くは、聞かない。でも…… ちゃんの好きな人って、何か羨ましいし。素敵だね?」 「どうして?」 「だって、ね」 何か言いたそうに、タマちゃんはこちらを見る。 でも、それ以上は口を開かないようだ。 「でも、後で教えてね。ちゃんと成功したのかを」 にっこちと笑いながら、タマちゃんはわたしの厚焼きたまごを奪うのであった。 「あ〜っ!」 「怒らない。口止め料ね」 最近、なっちゃんに感化されたらしく。タマちゃんは少しばかり積極的になったようでありまする。苦笑。 10月16日、雨のち晴れ。 何となく、わたしの心も晴れって感じ。 夕べから、ドキドキして睡眠時間もほんのちょっとだけ。 そう……緊張して、眠れませんでした。 わたし。 ずっと考えていたのです。 彼に…… 珪くんへとどうやって、誕生日プレゼントを渡そうかなと。 ブルーのビニール袋にラッピングされたそれの中身は、実は……ネコ耳つき枕とそれの枕カバー……。気に入ってくれるかどうかは、分からないことなのだけれど。 本当は、これと。 その……珪くんにこれを渡すときに、良い雰囲気になれたら。 その、あの……キスを頬に出来たらと思うのだけれど…… やっぱり、こればかりは無理かな……多分。 でもでも、もしかして……って言う甘い希望もあったりして。 だけど。 その。 朝から、珪くんへと届く他のクラスの女の子たちの贈り物や下級生の可愛い子たちのそれを目にしていたら……何か。自信なくしそう。 プレゼント。 上手く渡せるかも……不安。 そう考えているうちに、今日の授業も終わって。 ついには、放課後を迎えてしまったの。 どうしよう。 オロオロとしていたら。 「今日、暇か?」 目の前に、珪くんの姿が。 「……おまえ、暇か?」 「暇……うん、暇。だから、珪くんと一緒に帰りたい。帰れる?」 本当だったら、わたしがそれを言い出す言葉だった。 「ああ……今日、バイトないから」 ポツリポツリと言葉を選ぶようにして言う彼の言い方。 すごく、好き。 だって。 この瞬間は、わたしのことを見てくれるし。わたしのことをちゃんと考えてくれる、から。 だから、好き。 「うん、帰ろう。一緒に……」 珪くんと二人きりで帰る途中の公園で、わたしは彼を出来るだけ自然に呼び止めた。 「珪くん。あのね……」 横を歩いていた彼の足が、その場で止まった。 「あのね……」 神様、わたしに勇気をください。 彼に伝えることが出来るように。 「 ?」 不思議そうに、彼は首を傾げて見せる。 「あのね……誕生日おめでとう。あの、つまらないものかも知れないけれど……受け取ってくれる?」 受け取ってくれないと、すっごく困るよ。 わたし。 珪くんの目の前へとプレゼントを差し出して、わたしはぎゅっと眼を閉じたまま下を俯いた状態だ。 カサリとプレゼントを掴む音が耳に流れる。そして、ゆっくりとラッピングを解く音。 「……サンキュ。俺の好きなもの、おまえ……よく分かったな」 「本当? 良かった。気に入ってくれなかったら、どうしようかと……」 弾かれたように、わたしは顔を上げて。その続きを口にしようとしたときだった。 えっ? ゆっくりと綺麗な珪くんの顔が近づいてきた。 そんな気がしたとき。 柔らかな感触を口唇に受けた。 えっ? わたしを抱き締める珪くんの腕。 そして、離れる口唇から紡がれた言葉。 「俺……今年は、おまえからキスをもらうつもりだった……」 照れたようにして微笑んだ珪くんの表情に、わたしは思わず。 「……大好き。わたし、珪くんが大好き」 告げてしまった。 きっと、ここで言わなければ。もしかしたら、ずっと言えない気がしたから。 だから。 「うん。俺も…… が大好きだ」 そう囁いてくれた、珪くんの言葉こそが最高のものだった。 誕生日おめでとう、珪くん。 昨日よりも今日、そして明日。 どんどん、貴方を好きになってゆくよ。 |
2003©KONAMI/ 鏡ユイノ
『ときメモGS』葉月珪くん誕生日祝いに合わせたフリー創作を頂戴してまいりました。 女の子の恋のドキドキ感、ピュアな感覚がたまりませんね。 浄化されていくかの気分で、陽だまりの心地良さを思います。 初々しい恋人の一片を見事に書き出す手腕は流石です!! 読みやすい爽やかな口調による、話の運びvvv それに、彼のゆっくりな口調をそう捉えることも出来るのか!!と納得させられる、理由付けも素敵vvv 個人的には、なっちゃんに感化されて、積極的になったタマちゃんの成長ぶりにも、目が細くなります。 楽しみポイント満載で、嬉しいです♪ |
背景/挿画:咲維亜作